細胞分裂は染色体と細胞質内の要素を正確に二分する重要なステップである。したがって細胞分裂をひかえたG2期からM期進行の調節機構破綻は細胞の形質にドラスティックな変化を引き起こし、ゲノムの不安定化を誘発する。本研究はG2/M期における細胞周期進行制御の分子機構の解析とその破綻による腫瘍化のメカニズムを明確にし、最終的にはがん治療のための標的を見出すことを目的として行った。以下に具体的な成果を示す。 1) G2/M期制御破綻の腫瘍化における意義を明確にするために、Aurora-A乳腺特異的過剰発現マウスを作製した。その結果、分裂異常が誘導されて、多核細胞が多数出現するがp53依存性細胞死が誘導されて腫瘍は生じないことが分かった。そこでAurora-A乳腺特異的過剰発現マウスとp53欠損マウスを交配したところ、過形成は発生したが今度はp16依存性の細胞老化が誘導されたために、腫瘍化には至らなかった。 2) 癌細胞がタキソールなど微小管作動薬によって分裂期で長期停止した場合、細胞内でのエネルギー代謝が変化し、活性酸素が異常に上昇し、それが原因となって細胞死が誘導されることが分かった。また、活性酸素の下流でAskl、p38MAPキナーゼ、HSP27の経路が活性化し、それが原因で細胞死が起こっていることが明らかになった。 3) 分裂期のタンパク質分解を制御するCdh1遺伝子の不活化マウス及びノックインマウスの作成を終了した。Cdh1ホモ不活化マウスは胎生致死であったが、その原因は胎盤の巨細胞形成不全にあることが分かった。また、このマウス作成によってCdh1活性が生理的なendoduplication(多倍体化)に関与することが明らかになった。
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