細胞周期G2期からM期進行の調節機構の破綻は、細胞の形質にドラスティックな変化を引き起こし、ゲノムの不安定化を誘発する。G2期からM期の進行は(1)タンパク分解、(2)タンパクリン酸化という2つの生化学的イヴェントによって制御されていることが明らかにされ、その主たる調節因子の異常と腫瘍形成・悪性化の関係が注目されている。本研究はこれらG2/M期における細胞周期進行制御の分子機構の解析とその破綻による腫瘍化のメカニズムを明確にし、最終的にはがん治療のための標的を見出すことを目的としておこなった。以下に主な成果を述べる。 【1】Cdh1の機能解析:APCの活性化分子であるCdh1の個体における役割について、Cdh1の遺伝子トラップマウス(以下gene-trap(GT)と呼ぶ)及びRNAi法を用いて解析を行ったところ、細胞骨格の構成と細胞の形態及び運動に異常があることが分かった。特にChd1の不活化によってRhoの活性が抑制されることが分かり、その原因としてCdh1がRhoの抑制因子であるp190RhoGAPをユビキチン化し、その分解を促進する働きを持つことを明らかにした。本研究によって、細胞周期を制御するCdh1が、細胞の形態や運動もコントロールする、2つの役割を持つことが分かった。 【2】分裂期後期に分裂溝にAurora Bを運ぶことによって、細胞質分裂を進行させる役割を担うモータータンパク質Mklp2が、細胞分裂期チェックポイントにおいてMad2タンパク質と結合することによって、そのモーターとしての機能が抑制されていることが分かった。つまり、分裂期チェックポイントで細胞が分裂中に停止している間は、細胞質分裂が起こらないように調節されている機構が明らかになった。
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