研究概要 |
発癌過程においてジェネティックな異常とエピジェネティックが蓄積して,より悪性度の高い腫瘍に進展すると考えられている。我々は,個々の腫瘍における遺伝子変異とDNAメチル化の関連について解析し,大腸癌が,マイクロサテライト不安定性陽性,BRAF変異陽性かつCpGアイランドメチル化形質陽性の群(CIMP1),マイクロサテライト不安定性陰性,K-ras変異陽性かつCpGアイランドメチル化形質陽性の群(CIMP2),CpGアイランドメチル化形質陰性,p53変異陽性群(CIMPO)の3つのカテゴリーに大きく分類されることを明らかにした(Proc Natl Acad Sci USA, 2007)。 また,異常メチル化により不活化される遺伝子の機能解析を行い,Rasの負の制御遺伝子であるRASSF2がNF-kappaBシグナルを抑制すること,RASF2の核から細胞質への移行がアポトーシス誘導能に関与することを明らかにした。さらに,APCやbeta-cateninの遺伝子変異を認めない乳癌や口腔扁平上皮癌においても,SFRP1,2,5が異常メチル化により不活化することが,WNTシグナルの活性化に関与することを明らかにした。 癌におけるDNAメチル化の分子機構に関しては不明な点が多い。我々は,Dicerを遺伝学的にノックアウトした大腸癌細胞株を用いて,Dicer機能がSFRP4遺伝子のDNAメチル化の維持に重要なこと,Dicer機能が,ヒストンH3K9のメチル化に重要であることを明らかにした。本研究により,癌におけるRNA干渉系とDNAメチル化・ヒストン修飾のクロストークを初めて明らかにした。今後,Dicerによりプロセスされ遺伝子メチル化に関与する機能性RNAを同定することが必要と考えられる。
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