ヒト多発性GIST家系のモデルとして、生殖系列にc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異を持つノックインマウスの作成が完了した。このマウスはexon17に生殖系列のc-kit遺伝子の突然変異を持ち、これまでに報告されているマウスとは異なった変異型である。組織学的な検索により、ヘテロ個体・ホモ個体では胃・大腸等にカハールの介在細胞の過形成がみられ、盲腸に1ヶのGIST相当の腫瘍が発生することが明らかになり、以前に報告のある別のタイプのノックインマウスと類似した変化であった。ヒトの多発性GIST家系では小腸にカハールの介在細胞の過形成とGISTの多発が顕著であるが、このノックインマウスでは小腸には明らかな形態的な変化を認めず、小腸の収縮弛緩運動も明らかな異常を認めなかった。一方、マスト細胞に関しては、皮膚における細胞数の増加や減少は明らかでなく、皮膚マスト細胞に変化のみられた別のタイプのノックインマウスとは異なっていた。ホモ個体の精巣には精子形成の著明な低下がみられ、この形質はc-kit遺伝子の機能が喪失するタイプの変異を持つマウスの形質に類似した変化であった。 ノックインマウスの検索と並行してGISTに関するいくつかの研究を行った。まず、GISTに対するイマチニブ投与の国内臨床試験について、著明な効果がみられたことを他の研究者と共同で発表した。また、イマチニブに一定期間効果を示していた転移病巣内に発生してくる二次耐性病変において、その多くにc-kit遺伝子のexon13やexon17に付加変異がみられることを報告した。
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