研究概要 |
膵臓がんなどに見られるグルコース,アミノ酸,血清など栄養因子の極度の欠乏に対する耐性,及び低酸素下では多くの細胞でグルコースに対する依存性が低下するという一見矛盾する反応の,生化学的機構及びそれを支える遺伝子群及びその働きを明らかにすることを目的とした。この反応には,AMPK,AKTのほかに我々が見いだした,ARK5が関与する事を明らかにしてきた。AMPKおよびARK5には上流に位置するこれらを制御するキナーゼがある。これらが,LKB1とともにNDR2が関与することも明らかにしてきた。さらに,HepG2細胞などで見られる低酸素にするとグルコース欠乏に対して抵抗性を得るという極めて矛盾した反応にはTGF-βの低酸素による増量が関与することも見出している。さて,低酸素下に於いてグルコース欠乏で如何にして生存しうるのか,何をエネルギー源にするのかという疑問がある。この点に関しては,モデル実験からアミノ酸が有効なエネルギー源になること,またグルコース欠乏に於いて強く誘導される自食反応が細胞の生存にとって大きなインパクトを持っことを明らかにした。一方これらのモデル実験で得られた分子がヒトのがんで本当に働いているのかという点に関しては,大腸がん,多発性骨髄腫,angioimmunoblastic Tcell lymphomaなどで病理材料を用いて証明した。エネルギー代謝の全容を明らかにすることは極めて大切で,特にこれらの生物反応を標的とした治療薬の開発の面では決定的に重要である。この点に関しては,メタボロミクスの手法を用いて解析を進めている。
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