研究概要 |
がん細胞は、過剰な増殖への内在的圧力に血管新生を含めた組織の再構築が伴わず、恒常的な低酸素・低栄養状態に曝されている。これが血管新生能をがん悪性化の決定要因と考える根拠である。しかし実際のヒトの腫瘍は、多くのものが依然として血流が少なく極めて強い低酸素にさらされている。我々は、特に臨床的にhypovascularとして知られる血流の少ないがんでは、がん細胞自身が酸素や栄養の飢餓に耐性になっていることを見出した。本研究は、この低酸素・低栄養状態でがんが獲得した栄養飢餓耐性のメカニズムを解明することである。 これまでの研究で、1)正常細胞を低酸素状態にするとグルコース欠乏による細胞死に抵抗性になること、2)AKT, AMPKなどのタンパクキナーゼが関与すること、3)新規AMPK関連キナーゼとしてARK5を見出し、これが栄養飢餓耐性と、がんの浸潤転移の双方に関与する要の分子であることを見出した。正常組織では血流不足による飢餓耐性反応は通常必要ではない。本研究でがんに特異性の高い性質の生化学的機構及びそれを支える遺伝子群及びその働きを明らかにすることにより、これを標的とした治療法の開発が現実的になると考えられ、これは世界に例のない新しい治療法となる。
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