がん抑制遺伝子p53はヒトがんで最も高頻度に異常の認められる重要な遺伝子であり、そのコードする蛋白質は転写因子である。従ってその標的遺伝子として転写制御を受ける遺伝子群は、p53の生理機能を実行する因子であると考えられているが、その数は00〜300近くに達すると予測されている。最近では、これらp53標的遺伝子の中に、それ自体ががん抑制遺伝子として機能するものが存在する事実が明らかとなってきた。p53の生理機能の全貌解明と、新しいがん抑制遺伝子の単離の目的で、p53標的遺伝子の単離とその機能解析を進めている。本年度は、DFNA5遺伝子とSEMA3F遺伝子が新規p53標的遺伝子であることを明らかとした。DFNA5遺伝子は元々遺伝性非症候性難聴の原因遺伝子として報告されていたが、一方で我々はDFNA5遺伝子が、ガンマ線によるDNA傷害発生時に大腸細胞においてp53依存性に発現誘導される事実を見出し、さらに、DFNA5はp53非存在下にはDNA傷害誘導性の細胞死を抑制し、逆にp53存在下には、この細胞死を促進する事実を見出した。また、SEMA3F遺伝子は元々肺がんなどで高頻度の欠失を認める第3番染色体短腕21.3に存在するがん抑制遺伝子として報告されていたが、年度の我々の研究から、SEMA3Fの機能は、腫瘍血管新生抑制作用に重要な働きを持っていることが明らかとなり、さらにはp53による腫瘍血管新生抑制機能の重要なメデイエーターの一つであることが推察された。本年度の研究成果によって、p53によるDNA損傷時の細胞死誘導機構において新たな分子の関与が明らかとなり、その全貌解明のための重要な手がかりを見出すことが出来た。また、以前より多くの研究報告から推測されていたp53による腫瘍血管新生抑制作用について、具体的な実行分子を発見したことで、そのメカニズムの解明に大きく貢献し、その応用による腫瘍血管新生を標的とした新しいがん治療法開発のための基盤を作ることが出来たと考えている。
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