研究概要 |
がんの生物学的特性である無制限な増殖能や浸潤・転移能を分子レベルで理解するために、本研究ではチロシンポスファターゼとこれに関連する分子群の生理機能とがんにおける異常につき検討した。研究代表者はこれまでに、チロシンボスファターゼSHP-2が細胞の増殖・接着・運動を制御することを明らかにしている。また、SHP-2の結合分子である膜蛋白質SHPS-1がそのリガンドであるCD47と相互作用して細胞間シグナル伝達系(CD47-SHPS-1系)を形成し、細胞の接着阻止などに関与ずることを明らかにしている。SAP-1は、ヒト胃がんや大腸がんに高度に発現するチロシヒホスファターゼとして研究代表者が発見した。しかし、これまでにSAP-1の生理的な機能や病態的な意義について明らかではなかった。今年度は、以下の成果を得た。 (1)膜型分子であるCD47がどのような機構で別の細胞に発現するCD47のレセプターであるSHPS-1にtransに結合した後、乖離するかが不明であったが、CD47が別の細胞に発現するSHPS-1にtransに結合した後、SHPS-1発現細胞内にSHPS-1と共にendocytosisされること(trans-endocytosis)を明らかにした。このCD47のtrans-endocytosisには、クラスリンやダイナミンが重要であると共に、Rac, Cdc42により制御を受ける。 (2)受容体型チロシンポスファターゼであるSAP-1が、消化管上皮細胞の微絨毛に特異的に発現することを見出している。さらに、SAP-1のKOマウスを作成し解析したところ、小腸微絨毛の形態に異常を認めなかったものの、Apcmin+マウスとの交配による腫瘍形成において腫瘍数の低下を認めた。また、大腸がんの発生基盤として重要な炎症性腸疾患との関連につき今後解析を予定している。
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