原癌遺伝子Aktは種々の癌で遺伝子増幅や活性化が認められており、また癌の悪性化との相関も高いことが知られている。本研究では、Aktによる細胞運動制御機構について検討した。 我々は以前に増殖因子による繊維芽細胞の運動性上昇にAktが必須の役割を果たすことを報告した。Aktの活性型は移動中の細胞の前方(先導端)に局在する。本研究において、Aktとその活性化因子PDK1がPI3キナーゼからのシグナルのポジティブフィードバックに関与し、細胞の前方を規定することを示した。Aktシグナルを抑制すると極性が失われ、細胞の前方に特徴的なラフリング膜等の構造が阻害された。さらにAktは細胞の後方を規定するRhoと互いに抑制しあうことを示す結果を得た。AktがRhoを抑制する際の基質候補も得た。このPI3K-Akt経路のポジティブフィードバックとRhoとの相互抑制は、細胞の前後極性の確立メカニズムを説明しうると考えている。 長い距離を移動する繊維芽細胞等の細胞においては、前後極性の維持に微小管が関与することが知られている。しかし、細胞外のシグナルに応答していかなるメカニズムで微小管が配向するのかについては不明であった。本研究において、細胞の前後極性の確立に関わるAktが、その後の微小管の安定化に重要な役割を果たす事を明らかにした。Akt活性を抑制すると配向を持った微小管の重合が阻害され、また活性型Aktを発現するだけで安定な微小管の量が上昇した。さらにこの際のAktの基質について検討中である。
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