Aktは、細胞の増殖・生存・運動・グルコース代謝など、様々な過程において必須の役割を果たすキナーゼであるが、それぞれのコンテクストにおいてAktがどのようにして様々な機能を使い分けているのかは不明であった。最近我々は、PAKというキナーゼがAktおよびその活性化因子PDK1と同時に結合し、Aktの活性化を促進するスキャフォールド分子であることを見出した。興味深いことに、優性抑制型Aktを発現すると、細胞の生存、タンパク質翻訳、運動性は全て抑制されるのに対し、優性抑制型PAKの発現によりPAK依存的経路を阻害した場合には、細胞運動性が選択的に抑制されることが明らかとなった。このことは、PAKがAktの一部の機能を選択的に制御していることを示唆している。PAKがAktの機能を選択的に制御するメカニズムとして我々は、PAKがAktのアイソフォーム特異的にスキャフォールド分子として機能する可能性に注目した。AktにはAkt1、Akt2、Akt3という3つのアイソフォームが存在し、ノックアウトマウスを用いたin vivoの解析などから、それぞれ特異的な機能を持つことが示されつつある。まず、我々の用いている繊維芽細胞の系において、Akt1およびAkt2の細胞運動性への関与について検討したところ、Akt1が細胞運動性の促進に関与し、Akt2の関与は少ない事が示された。さらに、PAKがAkt2に比べてAkt1とより強く結合し、Akt1をより強く活性化することも明らかとなった。以上の結果から、PAKがAkt1特異的にスキャフォールド分子として機能することにより、Akt1が持つ細胞運動性に関わる機能を選択的に制御している可能性が示唆された。現在我々は、Akt1が細胞運動性を制御するメカニズムについても検討しており、ターゲット分子の候補もいくつか同定した。
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