本研究計画は、細胞の分化と死のシグナル伝達機構の機能解析に焦点を絞ったものであり、その成果は癌化メカニズムの理解に大きく貢献するものと考えられる。特に細胞の分化ならびに死に関わる細胞内シグナル伝達機構を明らかにすることを目標として設定した。本年度も、ASKファミリー分子群の機能解析を中心に研究を遂行し、ストレス応答MAPキナーゼ経路の制御機構の破綻と発がんとの関連性の解明を試みた。ASKファミリー関連としては、昨年度新しいメンバーとして発見したASK3の解析を進展させ、ASK3が活性酸素や浸透圧ストレスに極めてユニークな応答性を見せることを見出した。ASK2ノックアウトマウスのさらなる解析によりASK1に加えてASK2も酸化ストレス、カルシウムシグナルならびにDNA障害によって誘導されるアポトーシスに必要であることが示唆された。さらに、ASK1・ASK2ダブルノックアウトマウスの作製、および他のMAPKKK分子とASK1のダブルノックアウトマウスの作製、ASKファミリーノックアウトマウスにおける発がん系の負荷などを行った。特にASK2ノックアウトマウスは皮膚発がん系においてDNA障害によるアポトーシスに耐性であり、野生型に比べて有意に発がん率が高いことが明らかになった。他のMAPKKK分子との関係も含めて総合的にASKファミリーの生理的機能ならびに発がん機構との関連性について解析を行った。
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