研究概要 |
本研究計画は、細胞の分化と死のシグナル伝達機構の機能解析に焦点を絞ったものであり、その成果は癌化メカニズムの理解に大きく貢献するものと考えられる。特に細胞の分化ならびに死に関わる細胞内シグナル伝達機構を明らかにすることを目標として設定した。昨年度に引き続き、本年度も、ASKファミリー分子群の機能解析を中心に研究を遂行し、ストレス応答MAPキナーゼ経路の制御機構の破綻と発がんとの関連性の解明を試みた。これまでの皮膚二段階発がんモデルに加え、新たに食道化学発がんモデルを用い,ASK1ならびにASK2ノックアウト(KO)マウスにおける食道がんの形成について検討した。マウス飲水に8週間4NQOを混ぜて自由に飲ませ、その後経過を比較したところ、ASK1ならびにASK2KOマウスにおいて,ともに野生型マウスに比べて形成された腫瘍数が明らかに少ないことが明らかとなった。ASK2が食道発がんを促進する可能性が示された。これは、以前にASK2が腫瘍形成の抑制に働くことを示したマウス皮膚における皮膚発がん実験とは相反する結果である。その理由として第一に、細胞種によりASK2が異なる機能を持つ可能性、すなわち表皮細胞ではアポトーシス誘導に働く一方で、食道粘膜上皮細胞では増殖に働く可能性が挙げられる。第二に、腫瘍形成の誘導刺激の違いがASK2の異なる機能を顕在化させた可能性が考えられる。今後はASK2の発現制御機構の解明が重要な研究課題と考えられる。
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