研究概要 |
転写制御の異常は細胞周期制御の破綻を導き、癌化の原因と考えられているが、その分子機構には不明な点が多い。本研究では、「細胞増殖分化シグナルによる転写因子の活性制御機構及び、転写因子の制御異常によって生じる癌化を含めた細胞機能の破綻を分子レベルで解明する」ことを目指す。特にNFκB活性化の癌化及び癌の悪性化における役割、TRAF6によるNFκB活性化シグナル伝達機構及びTRAF6シグナルによる細胞増殖・分化の誘導機構の解明を目的として今年度は以下の結果を得た。1)成人T細胞白血病の原因ウイルスHTLV-1の発癌タンパク質Taxタンパク質によるNFκB活性化の際にNEMOのK63型ユビキチン化が起こる。このユビキチン化は昨年度示したK63型ユビキチン付加酵素Ubc13のノックダウン実験の他に脱ユビキチン化CYLDの過剰発現実験においてもユビキチン化は抑制されるもののNFκBの活性化には影響しなかった。従ってTaxはサイトカイン等の正常シグナルとは異なりユビキチン化依存的NFκB活性化を誘導しないと考えられた。2)35種類の恒常的NFκB活性化乳癌細胞株及び2種類のSRIκBによるNFκB不活性化株のRNAを用いたマイクロアレイにより癌細胞における新規NFκB標的遺伝子候補15種を抽出した。3)125種類の癌細胞株のNFκB活性化を定量的に解析し、特に活性化が強い12種の細胞株を用いてIKKの3つのサブユニットであるIKKα,IKKβ,NEMOの別にRNAiノックダウン実験を行い増殖について解析した。その結果、細胞株によって依存するサブユニットが異なることが明らかとなった。特にこれまでIKKαとIKKβは異なるNFκB活性化経路を活性化すると考えられており、このIKK依存性の違いが癌細胞の悪性度の質的な違いを生み出す原因となる可能性を考え今後検討していく予定である。
|