研究概要 |
研究実績の概要: N-WASPやWAVEはアクチンの重合を促進し、糸状仮足や葉状仮足を引き起こしてがん細胞の浸潤や転移に関与している。がん細胞は基底膜を潜り,浸潤転移を行う際、浸潤斑と呼ばれるアクチン繊維に富む突起を形成し、メタロプロテアーゼを放出して基底膜を溶かして転移していく。我々はN-WASPが浸潤斑形成に際し、活性化されアクチンの重合を促進してアクチンのロッドを形成して浸潤斑を形成することを明らかにしているが、接着斑から浸潤斑ができてくる機序については不明であった。我々はv-srcでトランスフォームした繊維芽細胞を用いて浸潤斑形成のシグナリングについて調べた。浸潤斑形成はPI3-キナーゼの阻害剤で抑制されることから,イノシトールリン脂質の関与が考えられた。様々なイノシトールリン脂質を認識するドメインにGFPを結合した蛋白質を発現させ浸潤斑でどのような脂質が合成されるのかを調べたところ、PI(3,4)P2を認識するTAPP PHドメインとPI(3,4,5)P3を認識するGrp 1 PHドメインの浸潤斑への局在が観察された。これらの脂質に結合し、N-WASPにも結合するアダプター蛋白質FISHが脂質とN-WASPを仲介していた。FISHは5つのSH3ドメインを有しているが、個々のSH3ドメインに結合する蛋白質をマススペクトロメーターで網羅的に調べた。全てのSH3ドメインはN-WASPに結合した。更にダイナミンが一部のSH3に結合したが、他に結合する蛋白質は検出されなかった.これらの結果から、まずPI3-キナーゼが活性化され、3位にリン酸の入ったイノシトールリン脂質が形成すると、FISHがリクルートされ、更に5個のSH3ドメインを通してN-WASPへのシグナルが強められ、アクチンの重合を促進するとともに、ダイナミンが膜の変形を引き起こして突起形成のきっかけを作り、浸潤斑形成に至ると考えられた。
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