ほとんどのがんは上皮系組織で生じる。その後、原発巣から離脱し浸潤、転移していく。原発巣から離脱する際に、上皮-間葉移行が起こり、単細胞がんとなり、更には間葉-アメーバ移行が生じ、更に浸潤、転移をし易くなると言われる。しかし、どのような機序でがん細胞がこれらの形質転換を起こすのか明らかではない。 3次元マトッリクス中でのがん細胞の運動には2種類ある。細長い細胞の間葉系細胞様の運動と丸い細胞のアメーバ様運動である。アメーバ様運動はアクトミオシンによる収縮が運動の動力発生でmRho/ROCKで制御されている。一方、細長い間葉系の細胞の運動機序は明らかではなかった。我々は間葉系細胞の運動はRacで制御され、WAVE2/Arp2/3による葉状仮足形成がその駆動力になっている事を明らかにした。Racシグナルの細胞運動への関与も3次元中で細長い形の間葉系細胞でも、まちまちであった。U87MGグリオブラストーマでは、ほとんどが間葉系細胞様の動きをした。この細胞のRacのシグナルを抑制すると細胞の浸潤は阻害された。HT1080細胞はその形が細長いのと丸いのとの混合で、混合型の細胞運動を示した。Racシグナルの抑制は間葉系の細胞からアメーバ様の細胞へとの移行を生じ、細胞の浸潤は抑制されなかった。しかし、HT1080細胞のRacとRhoの両方のシグナルを抑制すると浸潤は著明に阻害された。これらの結果から細胞の浸潤はRac系とRho系の両方のシグナルで制御され、がん細胞は状況に応じて間葉系からアメーバ様にまたアメーバ様から間葉系にその運動形式を変える事ができることを明らかにした。
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