研究課題
上皮系組織に発生したがん細胞は細胞間接着が緩み、原発巣から離脱して浸潤、転移していくようになる。がんの重篤さはがん細胞の転移によって引き起こされ、転移を抑制できればがんはもはや恐い病気ではなくなる。よって浸潤・転移の抑制が急務となる。上皮系組織で生じたがんはお互いの細胞同士がカドヘリンを代表とする接着分子で接着し、浸潤、転移し難くしている。しかし炎症状態や様々なケモカインなどに晒されたり、接着分子が欠損したりすると細胞間接着が緩む。上皮系形態を保っていたがん細胞が間葉系形態の単細胞へと変異する上皮-関葉変換(EMT)が生じるとがん細胞は転移し易くなる。我々はアクチンの重合を引き起こすWAVE2が上皮系細胞が細胞間接着を引き起こすのに重要なだけでなく、細胞間接着を強め、安定化させる作用をしていることを見いだした。WAVE2の欠損は細胞間接着を弱め、EMTを起こり易くした。一方、WAVE3が転移した乳がん組織で頻繁に発現している事やmiR200の下流で発現が抑制される事が分かって来た。miR200は通常EMTを抑制し、細胞を上皮系状態に保つ役割をしている。よってWAVE3の発現はWAVE2に拮抗してEMTを促進する方向に働いていると考えられた。そこで、実際にWAVE3が拮抗的に働いているかどうかを確かめた。WAVE3の強制発現をT47D乳がん細胞に発現し、細胞間接着への影響を見た。WAVE3の発現は細胞間接着を減弱し、WAVE2の発現を弱めた。WAVEタンパク質はSla/Nap/Abiと複合体を形成して存在し、複合体を構成するタンパク質の一種でも欠けると、分解されてしまう。WAVEの量は複合体構成成分の量で決定され、WAVE3の発現増加はWAVE2の発現量を抑制した。WAVE3が発現された細胞ではWAVE2の量は減少していた。これらの結果から上皮細胞のWAVE2は転移を抑制し、WAVE3は転移を促進すると結論された。
すべて 2010
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