研究概要 |
チロシンキナーゼは癌細胞の増殖制御に深く関与する機能分子である。代表者らはその制御機構を解明する目的で、独自に単離したDok-1(p62^<dok>)とそのファミリー分子の造血器腫瘍における機能と作用機序の解析を進めている。昨年度の本研究の結果から、我々はDok-1とDok-2がサイトカインによる増殖及び生存シグナルを負に調節することで、骨髄細胞の腫瘍化や白血病の発症、増悪化の抑制に機能していることを解明した(J.Exp.Med.,2004)。さらに、その研究過程で、両分子が、発癌に深く関連する炎症性の免疫シグナルの抑制に必須であることに気づいた。そこで、本年度の研究において、その分子機構について検討したところ、マクロファージをリポ多糖で刺激した際に、Dok-1/2が秒単位でチロシンリン酸化を受け、Erkの活性化を抑制することが判明した(J.Exp.Med.,2005)。これは、既知の誘導型の抑制機構とは異なり、Dok-1/2が常在かつ即応型の抑制因子として機能することを意味している。 他方、Dokファミリー分子による癌抑制の分子機構に関しては、Dok-1/2同様にRas-Erkシグナル系を抑制することができるDok-3の作用機構に関する研究を進めた。Dok-1/2によるRasの抑制に重要なrasGAPをDok-3がリクルートしないことを踏まえ、そのチロシンリン酸化に依存して会合する新規機能分子を網羅的に探索したところ、Grb2が同定された。さらに、Srcの下流では、Shcに結合することでRasを活性化しているGrb2/Sos複合体が、Dok-3とGrb2の会合によってShcに結合できなくなることを解明した。これは、Dok-1/2と共に血球に高発現するDok-3が、両分子とは異なる作用機序でRas-Erkシグナルを負に調節することを示唆している(Genes Cells,2006)。Dok-1/2/3三重欠損マウスの樹立は、計画通りに進んでいる。
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