チロシンキナーゼは癌細胞の増殖制御に深く関与する機能分子である。代表者らはその制御機構を解明する目的で、多様なチロシンキナーゼの共通基質として独自に単離したDok-1(p62^<dok>とその類縁分子の発癌における病態生理学的な機能と作用機序の解析を進めている。これまでの研究から、我々はDok-1とDok-2がサイトカインや抗原による血球の増殖・生存シグナルを負に調節し、その腫瘍化や炎症性の自然免疫応答に対して抑制的に機能することを解明している。しかしながら、本年度の研究から、Th細胞の分化やB細胞におけるIgEクラススイッチに重要なIL-4シグナルについては、Dok-1がその増殖誘導能を正に制御することが明らかになった。また、春日教授らとの共同研究によって、高脂肪食を与えたマウスの白色脂肪細胞においてDok-1の発現が誘導され、それがErkによるPPARγ活性の阻害作用を抑制することで脂肪細胞の肥大化を防いでいることが判明した。なお、昨年度の本研究にて樹立したDok-1/2/3三重欠損マウスの解析も順調に進んでいる。 他方、我々が受容体型チロシンキナーゼであるMuSKの細胞内からの活性化因子として新規に同定したDok-7については、それが、核移行能と核外移行能をもち、細胞質と核を行き来していることを解明した。もし、Dok-7が細胞膜上のMuSKを直接活性化するのであれば、その活性化には、細胞質におけるDok-7の存在が必要となるが、実際、我々が特定した核外移行シグナルはDok-7によるMuSKの活性化に必須であった。現在、細胞内アダプター様分子よる受容体型チロシンキナーゼの活性化と言う全く新しい制御機構について詳しい解析を進めている。
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