がん細胞の分化・極性の制御に関わる増殖因子受容体のシグナル伝達および細胞内局在について解析し、以下の結果を得た。 1.がん細胞の分化制御の理解のためにG1期での細胞周期の停止のメカニズムを明らかにすることが重要である。肝細胞増殖因子(HGF)は肝がん由来細胞株HepG2に作用して、ERKの強い活性化を介して細胞周期をG1期で停止することにより増殖を抑制する。本研究ではERKの強い活性化を導くシグナル伝達機構について、Grb2のHGF受容体(c-Met)への結合について解析した。内在性のc-Metと区別するために細胞外がNGF受容体で細胞内がc-Metであるキメラ受容体を用いて解析したところ、野生型受容体発現HepG2細胞ではNGF刺激によりERKの強い活性化と細胞増殖抑制が見られた。一方Grb2と結合できない変異型受容体発現細胞では、ERKの活性化が起らず増殖抑制も見られなかった。これらの結果により、細胞周期の停止を導くERKの活性化には、Grb2のc-Metへの直接結合が必要であることが明らかになった。 2.がん細胞における極性の変化と増殖因子受容体の局在は密接に関係している。本研究では受容体の局在に重要な役割を果たしていると考えられている脱ユビキチン化酵素UBPYについて解析した。まずUBPYの細胞内局在を調べた。Hrsを過剰発現した細胞ではUBPYはエンドソームに局在した。また酵素活性を欠損したUBPYはエンドソームに局在し、この局在はリガンド刺激によりエンドサイトーシスされたEGF受容体の局在と一致した。またsiRNAによりUBPYをknockdownした細胞ではEGF受容体の分解が促進された。これらの結果は、UBPYがユビキチン化レベルを調節することにより、エンドソームにおけるEGF受容体の選別輸送の制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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