胎児期の脈管形成、血管新生の分子機序が、近年血管形成に関わることが明らかにされてきたレセプター型チロシンキナーゼであるVEGF受容体ファミリー、TIEファミリー、Ephファミリーの機能解析から徐々に明らかにされつつある。胎児期の血管形成の基本原理は、成体における種々の生理的、病的血管形成のメカニズムにも同様に利用される分子機序であることが想像される。しかし、特に腫瘍内に形成される血管は、正常な血管で観察される血管壁細胞の内皮細胞への裏打ちが高頻度に欠損し、また開放系の血管のごとく内皮細胞の存在しない血管様構造も観察されるなど、正常な血管形成の原理が全てあてはまるものではない。壁細胞の裏打ちにより、血管は構造的に安定化するとともに、新しい血管の形成が抑制されると考えられている。そこで、腫瘍血管では壁細胞の血管内皮細胞への裏打ちが遅延するために、過剰な血管新生が生じる。このような、血管壁細胞の内皮細胞への裏打ち機構を明らかにするために、本年度、末梢血や骨髄中に存在することが報告されてきた血管内皮前駆細胞以外に、血管壁細胞に分化可能な末梢血、骨髄内血管壁前駆細胞の表現型を明らかにすべく研究を行なった。その結果、胎児期においても、また成体においても、造血幹細胞分画の細胞はTGFbやPDGF-BBの刺激により、血管壁細胞に分化する能力を持っていることが判明した。詳細な検討結果、造血幹細胞はCD11b/Mac1という単球に発現する膜蛋白を発現した後に血管壁細胞に分化することが判明した。このような、造血系の細胞の壁細胞への分化を制御することにより、腫瘍内の血管形成を抑制する方法論の確立に本機構を利用できるのではないかと考えられた。
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