腫瘍組織の血管は、通常内皮細胞を裏打ちする壁細胞が広く欠損し、構造的に脆弱であり、血流の停滞が生じている。またがん組織内の間葉系細胞の無尽蔵な発達から、腫瘍間質と血管内腔間では浸透圧の圧差が生じず、血流内に投与された薬剤が腫瘍組織に浸透しない状況となっている。このことから、血管新生を抑制するという治療概念と異なり、腫瘍内の脆弱な血管を正常化し、薬剤の透過性を誘導して、抗腫瘍効果を誘導する治療概念が出現してきた。このような治療方法を発展させるためには、腫瘍内においてはなぜ血管が正常な構造を保てないのかの解析が必要である。そこで本研究では、血管の基本構造である、血管の動脈化と静脈化について、特に腫瘍においてはどのように動静脈化が規定されるのかを検討した。静脈の内皮細胞にはEphB4受容体が発現し、動脈内皮細胞にはその結合因子であり膜結合型のephrinB2が発現している。我々は以前、ストロマ細胞を用いた血管内皮細胞の培養系において、ストロマ細胞にEphB4を過剰に発現させると動脈内皮細胞が発生せず、逆にephrinB2を過剰に発現させると静脈内皮細胞が発生しないことを報告してきた。腫瘍細胞にはEphB4が広く発現しているが、腫瘍の悪性化とともにEphB4の発現が減弱することから、EphB4の過剰状態は腫瘍内の動脈化を抑制していると仮説を立てた。そこで、EphB4を腫瘍細胞に過剰に発現させ、マウス皮下に移植したところ、EphB4を過剰に発現した腫瘍では、ephrinB2陽性の動脈の形成が抑制され、腫瘍の増大も抑制された。またEphB4を過剰に発現させた腫瘍とephrinB2陽性の内皮細胞の共培養により、ephrinB2陽性の内皮細胞は細胞死が誘導された。以上より、腫瘍細胞の発現するEphB4が腫瘍の動脈化を制御して、腫瘍組織の発達に関与していることが明らかになった。
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