われわれはyeast two hybrid法により、Aktキナーゼの新規基質Girdinを同定した。昨年度までの研究により、Girdinはアクチン結合蛋白であり、Aktによりそのセリン1416がリン酸化を受け、アクチン線維の再構成を引き起こすことを明らかにした。さらにGirdin siRNA存在下において、細胞運動を著しく低下することから、Akt-Girdinシグナル伝達系の細胞運動における重要性を証明した。 本年度はAkt-Girdinシグナル伝達系の腫瘍細胞の浸潤、増殖における役割についてA431扁平上皮癌細胞を用いて検討した。A431細胞にGirdinのshort hairpin型siRNAをトランスフェクトし、Girdinの発現をノックダウンした細胞株を樹立した(以下A431-Girdin KOと呼ぶ)。ボイデンチャンバー法やWound healing法により、EGF非存在下、存在下におけるA431細胞とA431-Girdin KO細胞の細胞運動能を比較したところ、後者ではEGF存在の有無に関わらず運動能が有意に低下していることが判明した。また細胞増殖能を検討した結果、A431-Girdin KO細胞の増殖能はA431細胞に比較して約1/2に低下していた。さらに、両細胞株を10^6個ヌードマウスの皮下に移植して3週間後の造腫瘍能を比較した結果、A431-Girdin KO細胞に由来する腫瘍の大きさはA431細胞の約1/2であった。以上の結果よりGirdinのノックダウンにより引き起こされるアクチン線維の再構成の異常は、A431細胞の運動能、増殖能をともに低下させることが明らかになった。
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