Akt-Girdinシグナル伝達系の腫瘍細胞の浸潤、増殖における役割についてMDA-MB-231ヒト乳癌細胞を用いて検討した。MDA-MB-231細胞にGirdinのshort hairpin型siRNAをトランスフェクトし、Girdinの発現をノックダウンした細胞株を樹立した(以下MDA-Girdin KOと呼ぶ)。ボイデンチャンバー法やWound healing法により、IGF-1非存在下、存在下におけるMDA細胞とMDA-Girdin KO細胞の細胞運動能を比較したところ、IGF-1存在の有無に関わらずMDA-Girdin KO細胞の運動能が有意に低下していることが判明した。また細胞増殖能を検討した結果、MDA-Girdin KO細胞の増殖能はMDA細胞に比較して経度に低下するものの、両者の間に有意差は認めなかった。さらに、両細胞株を3x10^6個ヌードマウスの皮下に移植して10週間後の肺への転移能を比較した結果、MDA-Girdin KO細胞の転移能は著しく低下した。以上の結果よりGirdinのノックダウンにより引き起こされるアクチン線維の再構成の異常は、MDA-MB-231細胞の運動能を低下させることより、肺への転移を抑制することが明らかになった。 次にGirdinの発現を免疫染色法にてヒトの乳癌および消化器癌組織で検索した。その結果、正常乳腺上皮や消化管粘膜上皮には発現を認めないものの、癌細胞の約10-20%の症例でGirdinが高発現し、20-30%の症例で中等度に発現していることが判明した。今後Girdinの発現が癌細胞の悪性度に関与しているかどうか検討する必要がある。
|