研究概要 |
RETチロシンキナーゼの下流シグナルの活性化におけるアダプター蛋白Dok-6の機能解析を行った。 RETを発現する神経芽細胞腫細胞株にDok-6を過剰発現させたり、ノックダウンして、RETのリガンドであるGDNF刺激を行った。Dok-6の発現レベルに関わらず、GDNF刺激による神経芽細胞腫細胞株の増殖および神経突起の伸長に有意な変化を認めなかった。さらにGDNF刺激によって誘導されるERK,AKT,JNK,p38MAPKなど主要なシグナル伝達因子の活性化(リン酸化)レベルを比較したものの、Dok-6の発現レベルによる差は認めなかった。われわれが以前に報告したように、他のDokファミリー蛋白であるDok-1はGDNFによって誘導されるERKの活性化を負に、Dok-4は正に制御する。Dok-6がなぜRETの下流のシグナルに影響を与えないかを明らかにするため、MEN2A型RETとDok-1,Dok-4,Dok-6のPTBドメインとの結合能をGST pull-down法を用いて検討した。その結果、Dok-6PTBドメインの結合能はDok-1およびDok-4のPTBドメインと比較して、極めて弱いことが判明した。この結果は、Dok-6の発現レベルが、GDNF刺激によるRETの活性化に伴う下流のシグナルに影響しない結果とよく一致している。さらにコンピューターシミュレーションにより、RETのリン酸化チロシン1062周囲の配列とDok-1,Dok-4,Dok-6のPTBドメインの結合に必要なエネルギーを比較した結果、Dok-6PTBドメインはDok-1およびDok-4PTBドメインに比べ、それぞれ3,5倍、1.7倍必要であることが明らかになった。また神経芽細胞腫細胞株ではRETのリン酸化チロシン1062と強く結合するSHCアダプター蛋白が高レベルで発現しており、RETとSHCの強い結合により、Dok-6を過剰発現しても効果が現れないものと推測された。よって、Dok-6はRET以外のチロシンキナーゼのシグナル伝達因子としてより効果的に働く可能性がある。Dok-6の生理機能を明かにするために、結合蛋白のさらなる解析が必要である。
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