研究概要 |
本研究の主眼点は、Srcシグナル伝達系による癌化細胞の接着と運動制御を介した浸潤・転移活性化機構を、申請者らが確立した独自の系を用いて解明する事にある。原がん遺伝子産物のSrcキナーゼは、ヒト乳癌、大腸癌で高頻度に活性化が報告され、その浸潤・転移活性化機構の解明は癌制圧にとって重要な課題である。本研究は、Src依存シグナル伝達系が、如何にして細胞接着を破壊し、細胞間質を分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の分泌を活性化するか、癌細胞の運動を活性化するかを明らかにする事を目的とする。申請者らは、既にFAKやRas-MAPK等のシグナル伝達因子がMMPの分泌や細胞接着を制御すること、Srcシグナル伝達系は、癌細胞のヒアルロン酸合成を活性化し、細胞周囲にヒアルロン酸リッチマトリックスを形成すると共に、ヒアルロン酸-CD44のジグナルを介して運動性とMMP分泌を活性化する事を明らかにしている。これらの成果にもとづき本研究は、条件依存発現制御系を用いて癌細胞の接着・運動に決定的なSrc依存シグナル伝達系を解析する。また、cDNA Array法、cDNA遺伝子導入法、siRNA等を用いて、新規の浸潤・転移制御因子の同定とその制御を目指す。更にこれらの結果をもとに、Src依存シグナル伝達系による細胞接着・運動制御機構の全容を明らかにし、新たな制癌治療の方法論を確立する事を目的として計画した。本年度は,ギャップ結合の機能制御に特に焦点を当てて解析を進めた。細胞は,コネキシンの6量体からなるギャップ結合を形成し,細胞間の情報伝達を行っている。Src癌化細胞では,このギャップ結合の機能が抑制され,細胞間の情報伝達が遮断されている。この時,コネキシン43のチロシンリン酸化が観察される事から、この情報の遮断はリン酸化に基づくと考えられてきた。しかし我々は,他のシグナル伝達系の関与もあり得ると想定し、Rasシグナルについて検討を行った。その結果、ドミナントネガティブRasやGap1mを条件依存性にSrc癌化細胞に発現しても,またRasの阻害剤マヌマイシンでSrc癌化細胞を処理しても,コネキシン依存細胞間情報伝達が回復する事を確認した。この結果は,コネキシンのリン酸化だけではギャップ結合の機能阻害は起きず,Rasシグナルの活性化が必要である事を示す。
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