本研究の主眼点は、Srcシグナル伝達系による癌化細胞の接着と運動制御を介した浸潤・転移活性化機構を、申請者らが確立した独自の系を用いて解明する事にある。原がん遺伝子産物のSrcキナーゼは、ヒト乳癌、大腸癌で高頻度に活性化が報告され、その浸潤・転移活性化機構の解明は癌制圧にとって重要な課題である。本研究は、Src依存シグナル伝達系が、如何にして細胞接着を破壊し、細胞間質を分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の分泌を活性化するか、癌細胞の運動を活性化するかを明らかにする事を目的とする。申請者らは、既にFAKやRas-MARK等のシグナル伝達因子がMMPの分泌や細胞接着を制御すること、Srcシグナル伝達系は、癌細胞のヒアルロン酸合成を活性化し、運動性とMMP分泌を活性化する事を明らかにしている。これらの成果にもとづき本研究は、癌細胞の接着・運動に決定的なSrc依存シグナル伝達系を解析する。また、新規の浸潤・転移制御因子の同定とその制御を目指す。更にこれらの結果をもとに、Src依存シグナル伝達系による細胞接着・運動制御機構の全容を明らかにし、新たな制癌治療の方法論を確立する事をめざす。本年は、Srcの基質であるSHPS-1が、がん抑制遺伝子としての機能を持つこと、Srcキナーゼが活性化されたヒト乳がん細胞にSHPS-1を強発現すると足場非依存細胞増殖能を選択的に抑制することを明らかにした。また、Srcの基質であるβ-cateninが微小管の中心体への結合と伸展に必須の役割をすることを明らかにした。さらに、SrcファミリーキナーゼのYes、Lynの持つCCモチーフの機能に注目し、実験を行い、Src同様Yes、Lynのキナーゼ活性制御にも、CCモチーフが重要な役割を担うことが明らかになった。
|