Srcは膜結合型のチロシンキナーゼであり、細胞の増殖、分化など多くの生理的な役割を担っている。Srcの活性は主にチロシンのりん酸化によってなされている。今回我々はSrcの一酸化窒素(NO)による活性化が、SrcのC末端に存在する498番目のシステインのニトロソ化によるものであることを明らかにした。498番目のシステインをアラニンにかえたC498A-Srcでは、NOによる活性化が観察されなかった。さらにC498A-Srcを発現した細胞は野生型Srcを発現する細胞に比べ、NO刺激による細胞運動の亢進が抑制された。MCF7細胞は乳癌由来の細胞であり、エストロゲン存在下でその浸潤が亢進することが観察された。MCF7細胞をエストマゲンで刺激するとNO産生酵素であるeNOSの発現が亢進することが報告されている。そこでエストロゲン刺激によるNOの産生を検討したところ、24時間後にNOの産生が促進していることが確認された。さらにSrcの活性を検討したところ、エストロゲンによりSrcが活性化され、そしてその活性化はNO合成阻害剤で抑制されることが判明した。また、エストロゲンにより、Srcがニトロソ化されることが明らかとなった。C498A-SrcをMCF7細胞に導入すると、野生型Srcに比べその活性は減少しており、またニトロソ化も抑制されていた。さらにC498A-Srcを発現すると、エストロゲンによる浸潤の亢進が抑制された。これらの結果は、NOがSrcの498番目のシステインをニトロソ化し、そしてその酵素活性を制御し、細胞の浸潤を促進することを示唆する。
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