研究概要 |
1,Rasの標的蛋白質ボスホリパーゼCε(PLCε)ノックアウトマウスでは、ボルボールエステルTPA処理により誘導される浮腫を伴う皮膚の炎症反応や好中球浸潤が強く抑制され、IL-1α等の炎症性サイトカインの発現低下が観察された。また、マウスを用いた他の炎症誘導実験系(炎症性腸炎モデル及び接触皮膚炎モデル)においても、PLCεノックアウトによる顕著な抑制が認められた。さらに、PLCεノックアウトにより、APC遺伝子の変異を持つMinマウスの腸の腺腫発生数の減少とその悪性化の顕著な抑制が認められたことから、PLCεが炎症反応の惹起を通じて発癌プロモーションに普遍的に関与することが証明された。 2,Rap1特異的グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であるRA-GEF-1のノックアウトマウスが卵黄嚢における脈管形成異常により胎生9.5目で致死性を示すことから、Rap1の胎生期脈管形成における機能が初めて証明された。同じくRA-GEF-2が、M-RaSと結合してRap1を活性化し、TNFα刺激依存性のBリンパ球の細胞接着を仲介することをRA-GEF-2ノックアウトマウスを用いて証明した。 3,M-Ras及びそのH-Ras型アミノ酸置換変異体のGTP結合型ながら標的蛋白質との結合能力を持たない型(state1)の有するポケットに嵌入しstatel1を安定化する低分子化合物をインシリコ・スクリーニングにより探索し、試験管内でH-RaSと標的蛋白質Rafとの結合を阻害する化合物を同定した。また、これら化合物がrasがん遺伝子を持っがん細胞の足場非依存性増殖能を低濃度で阻害することも示した。さらに、化合物の構造展開を行って、低濃度でH-RaSとRafの結合を阻害する化合物を同定した。RasファミリーG蛋白質のGTP結合/解離反応において、statel1が重要な役割を有することを証明した。
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