研究概要 |
これまでに我々は、DNA損傷時にp53依存的に発現誘導されるがん遺伝子産物であるWip1ホスファターゼが、DNA損傷によりリン酸化・活性化されたがん抑制遺伝子産物であるチェックポイントキナーゼ(Chk1,Chk2)を脱リン酸化し不活化することにより、作動したチェックポイント機構を解除することを明らかにした。本研究では、まずDNA損傷応答シグナル伝達において最も上流に位置するATMキナーゼの活性化に必要な自己リン酸化部位である1981番目のセリンをwip1ホスファターゼが脱リン酸化することによりATMを不活化し、作動したチェックポイント機構を完全にシャットダウンすることを明らかにした。また、オールトランスレチノイン酸に耐性となった急性前骨髄球性白血病(APL)に対して適応とされている三酸化砒素が、NB4細胞(PML・RARα遺伝子の転座が認められるAPL細胞)においてChk2キナーゼやP38MAPキナーゼのリン酸化・活性化およびアポトーシスを濃度依存的に誘導することを見い出した。三酸化砒素によるアポトーシスは、Chk2遺伝子のノックダウンやp38MAPキナーゼ阻害剤により抑制されることから、これらのキナーゼがアポトーシスにおいて重要な役割を担っていることが示された。加えて、三酸化砒素はChk2キナーゼやP38MAPキナーゼを脱リン酸化・不活化するホスファターゼを抑制することが明らかとなった。また、これまではWip1ボスファターゼによる脱リン酸化を介したChk1,Chk2キナーゼの活性制御機構が明らかとなっていたが、本研究ではさらにWip1ホスファターゼがChk1,Chk2によりリン酸化を受けることが見い出され、Chk1,Chk2キナーゼとwip1ホスファターゼの間の双方向的制御機構の存在が示唆された。
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