研究概要 |
我々はハイブリッド関数ペトリネットを基本アーキテクチャとする生命パスウェイシミュレーションシステム構築を目的とするGenomic Object Netプロジェクトを進めており、がんに関連する細胞内分子相互作用ネットワークである細胞周期機構やアポトーシスシグナル伝達経路などをこれまでの研究で作成している。本特定領域研究では新たに、がん関係遺伝子であるp53,MDM2,p19ARFの相互制御関係について8件の生物学文献を基にモデル化し、シミュレーションを実行した。得られた成果は、これらのタンパク質が3量体を形成したときの転写活性について新しい仮説を導出したことで、同様な仮説導出は現存する他のパスウエイモデル化手法ではなしえないことも指摘した。 がん制御機構を破綻させる生命パスウェイ中の反応を特定する手法をリカレントニューラルネットワークを用いて開発した。この手法により、生命パスウェイを構成する分子を逐次的にノックアウトしてシミュレーションを繰り返す必要がなくなり、計算時間を大幅に短縮することができた。実際にこの手法をアポトーシスシグナル伝達経路について適用し、その有効性を確認した。 生命パスウェイは分子の連鎖反応を絵的に記述した図としてまとめられるが、この図には分子の反応順序などのタイミング情報は組み込まれていない。そこで、このタイミング情報をペトリネットで表現したパスウェイ図を作成し、ホームページを作成して公開した。これによって、単なる分子の相互作用と反応順序だけでなく、パスウェイ中の反応の質的なダイナミクスの把握が可能になる。現在は、TPO,IL-1,G-proteinの3つのシグナル伝達経路だけであるが、順次追加していく予定である。 (ホームページのURL http://genome.ib.sci.yamaguchi-u.ac.jp/〜pnp/)。
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