小胞体(ER)ストレスに対する反応は、タンパクや細胞の質のチェック機構として作用する。ERストレスによる細胞死の異常は、一部の前立腺がんを引き起こす。また、一部の抗がん剤はERストレスによりがん細胞の細胞死を誘導する。本研究では、Apaf1分子に依存するミトコンドリアを介したアポトーシス誘導機構がERストレスによる細胞死誘導機構にどのように関与するかを分子生物学的に明らかにし、その異常による発がんメカニズムや、ERストレス誘導性抗がん剤の作用機序を解明することを目的とした。Apaf1を欠損する胎児線維芽細胞や神経前駆細胞は、種々のERストレスを誘導する薬剤に抵抗性を示し、また、野生型細胞においてもBcl-xlの発現によりERストレスに抵抗性を示すようになったことより、小胞体ストレスにミトコンドリアやApaf1を介した経路が関与していることが明らかになった。これまでERストレスによる細胞死に重要とされていたカスパーゼ12は、Apaf1の下流で活性化するものの、ERストレスによる細胞死には重要な役割を果たしていないこととが示された。(論文投稿中) 一方、Apaf1に依存しない細胞死機構を探索する過程で、これまでにニューロンの分化段階におけるアポトーシスの低下により脳の形成不全をきたし胎性致死にいたると報告したApaf1欠損マウス個体の一部において、形態的な異常がなく、また各臓器においても生理的なアポトーシスが正常に生じ、成体にまで発育する例があることを報告した。このことは、Apaf1などが関与するアポプトゾームに依存しない、まったく新しい、生理的な細胞死誘導経路があることを示唆しており、神経前駆細胞の細胞死を解析することにより、この新しい細胞死の経路の分子メカニズムを探っている。
|