近年、がん細胞周囲の微少環境ががんの増殖や浸潤に重要な影響を与えることが明らかになってきた。本研究では、重要な微少環境因子として私たちが長年注目してきた数種の細胞外マトリックス分子と細胞外プロテアーゼに注目して研究を行った。1)ラミニン5は基底膜の主要な構成成分で細胞の接着や移動を調節する。がんの浸潤先進部位ではラミニン5が産生されず、そのγ2鎖が単独で過剰発現することを報告した。さらに、ラミニン5のγ2鎖短腕部位に機能部位が存在し、これがプロテアーゼにより切断分離されると、ラミニン5の細胞接着活性が低下し、運動活性が充進することを最近見いだしている。本年度の研究では、γ2鎖N末端のドメインVが細胞表面のシンデカン1に結合してインテグリンβ4鎖のリン酸化を抑制すること、また、γ2鎖短腕が問質でのがん細胞の移動や増殖を促進することなどを見いだした。これらの結果は、がん浸潤の代表的なマーカー分子として知られているラミニン5のγ2鎖ががんの浸潤性増殖に積極的に関与することを示す。2)私たちが、がん細胞由来の接着分子(TAF)として同定したIGF結合タンパク質様タンパク質IGFBP-rP1の腫瘍増殖に及ぼす影響を調べた。IGFBP-rPI cDNAあるいはそのsiRNAをがん細胞に強制発現させた実験から、本分子がin vitroでヒトがん細胞の浮遊増殖性を充進させ、 in vivoでは腫瘍増殖を強く抑制することを明らかにした。3)IGFBP-rP1を効率よく切断する膜結合型セリンプロテアーゼであるマトリプターゼがストロムライシン(MMP-3)を活性化し、in vivoで腫瘍増殖を促進することを見いだした。以上の結果から、これらの分子ががんの増殖浸潤の調節に重要な役割を果たしており、がん標的分子として有望であると考えられた。
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