がん組織におけるリンパ管・血管新生の共通分子機構の解明研究遂行に際し、リンパ管内皮細胞を単離・同定できる抗体作成を目指し、免疫染色、FACSに使用できるマウスLYVE-1抗体の作成に成功したことを昨年度報告した。これまで、リンパ管内皮細胞を単離・同定できる抗体は海外の研究室にしかなく自由に使用できないことが、国内のリンパ管研究の推進にあたり障害となっていたが、我々の作成したマウスLYVE-1抗体を国内の研究者に配布し、多くの研究グループがこの抗体を用いることによりリンパ管を用いた研究で成果を上げ、一部は既に論文として報告されはじめたことは、国内におけるリンパ管研究のインフラ整備に貢献できたと考えている。また、ヒトリンパ管腫症例のリンパ管腫摘出症例からヒトリンパ管内皮細胞株の樹立を行い、さらに不死化にも成功し(投稿準備中)、リンパ管研究のin vitroでの研究推進に役立つものと考えている。さらに本年度掲げた研究プロジェクトの中で「アンジオポエチンシグナル制御による悪性腫瘍の進展・転移制御解析」に関しては、アンジオポエチンシグナルを負に制御するために特異的受容体であるTie2受容体の可溶型Tie2受容体及びファミリー分子のTie1受容体の可溶型Tie1受容体を発現するアデノウイルスを作成し、マウスにおける腫瘍移植モデルでその効果を検討した。複数のがん細胞株を用いた実験で可溶型Tie2受容体が腫瘍増大を抑制する効果があることを見出しており、現在その機構を検討している。また、「Angpt1シグナル制御による悪性腫瘍の進展・転移制御解析」に関しては、Angpt12が様々ながん細胞株で発現が亢進していることを見出した。また、Angpt12の生物学的機能として血管新生作用、リンパ管新生作用、単球遊走能促進を見出しており(投稿準備中)がんの増大、進展、転移に関わっている可能性を見出しており、その抑制が治療につながる可能性を考え、現在中和活性を有する抗体の作成を試みている。
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