骨肉腫細胞株Hu-09の転移能の異なる亜株群を用いてチロシンリン酸化の相違の検索を進めた。転移性の高い群では、どれも低い群よりもSrcファミリーのキナーゼ活性が亢進していたが、それに対応して最も顕著にリン酸化している分子としてpaxillinが同定された。Srcファミリーのキナーゼ活性の特異的阻害剤やsiRNAにより高転移群の骨肉腫細胞でpaxillinのリン酸化や発現を抑えると細胞運動能が低下した。また低転移群の細胞に、paxillinを過剰発現すると、細胞の運動能が亢進したが、このような運動能の亢進にはpaxillinの主要なチロシンリン酸化部位が必要でありFynキナーゼと協調的に細胞運動能を亢進させることも明らかになった。 受容体型チロシンキナーゼEphBのリガンドephrin-B1のリン酸化メカニズムや、新規の結合分子の同定などから、Srcの基質としてのephrin-B1の機能に迫ろうとしてきた。最近タイトジャンクションの構成成分であるclaudinがephrin-B1と結合能を持ち、細胞間接着に伴いclaudinが膜表面に集積することでephrin-B1がリン酸化するという新しいメカニズムを見いだした。このような受容体を介さないephrin-B1の活性化は、他の機序によっても起こると考えられ、その1つとして細胞-基質間接着でインテグリンが活性化することにより、Srcファミリーを介してephrin-B1がリン酸化するメカニズムがあると考えられた。 神経芽腫細胞株でチロシンリン酸化を受けるドッキング分子ShcCは、Grb2を介して下流のPI3K-Akt経路やMAPK経路を制御しているだけでなく、paxininなどの分子と結合することによりSrc-Casシグナル経路を介して腫瘍の足場非依存性増殖能、細胞運動能などの形質を制御することが示唆された。
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