固形腫瘍の足場非依存性増殖に関わる分子として2007年に肺がん細胞から同定したCDCP1は、Srcファミリーによりリン酸化して下流のエフェクター分子PKCδを膜にリクルートすることで、固形腫瘍の足場非依存性増殖や運動能・浸潤能を制御することがわかった。ヒトスキルス胃がん44As3細胞においてCDCP1をRNAiによって制御するとマウス腹腔内に注射した際に生ずる腸間膜転移が強く抑制されるが、造腫瘍能などに対する影響は見られず、CDCP1が固形腫瘍の転移浸潤を抑える標的分子としての有用である可能性が示唆された。 スキルス胃がん44As3細胞をマウス腹腔内に注射すると腸間膜播種を起こすが、この腸間膜浸潤部位で通常培養時に比べ強くチロシンリン酸化された蛋白質の1つとして質量分析により機能未知の蛋白質c9orf10が同定された。C9orf10は紫外線や過酸化水素などの酸化ストレス刺激によって細胞内でSrcファミリーキナーゼによってチロシンリン酸化を受け、Srcファミリーキナーゼと会合することによりその恒常的活性化に関わる。このことから我々はc9orf10をOssa(Oxiative Stress-associated Src Activator)と命名した。Ossaはリン酸化依存的にP13キナーゼのp85サブユニットと結合し、P13キナーゼ-AKTシグナルを活性化することが分かった。この結果としてOssaを高発現する腫瘍は酸化ストレスによるアポトーシスに対して抵抗性を獲得していると考えられる。実際、スキルス胃がん細胞のOssaの発現をRNAiによる抑制すると、そのマウスモデルでの腸間膜播種が抑えられた。酸化ストレスに対する抵抗性は転移・浸潤のほか化学療法や放射線療法などに対する腫瘍の耐性にも関わっていることが考えられ、固形腫瘍の治療標的として期待が持たれる。
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