研究概要 |
臨床上多くの重要な薬物の代謝に関与しているCYP2D6には80種類を超える遺伝子多型が存在する.しかしながら,これまでに報告されている遺伝子多型だけでは、日本人のpoor metabolizer(PM)を十分に説明することができない.そこで,日本人424名においてCYP2D6遺伝子の5'-上流領域,全エクソンおよびエクソン-イントロン接合部位の塩基配列をダイレタトシナークエンス法により解析した.その結果,これまでに報告のないCYP2D6^*44(82C>Tおよび2950G>C)ハプロタイプを見出した.2950G>Cはエクソン6のドナースプライト・サイトでの遺伝子多型であるため,information theory weight matricesに基づきinformation contents(R_i値を算出し,スプライシングに及ぼす2950G>Cの影響を検討した.2950G>CによりR_i値は4.2bitsから-5.6bitsに低下し,代わりに新たなスプライスドナーサイトの候補としてR_i値が2.9bitsの2993gtを見出した.2950G>Cを有するCYP2D6遺伝子全長を含むプラスミドをCOS-1細胞に導入し,スプライシングパターンを検討した結果,正常なスプライシングは検出されず,2993gtでスプライスが起こることにより生成するスプライスバリアントを見出した.さらにデキストロメトルファンを用いたin vivo代謝試験においても,CYP2D6^*44を有する検体の代謝能は他CYP2D6遺伝子多型群と比較して低かった.以上のことから,CYP2D6^*44からは正常なスプライシングは起こらず,代わりに生成するスプライスバリアントも未熟ストップコドンにより酵素活性を持たないタンパク質を生成することを明らかにした.CYP2D6^*44アリルはPMの原因となることが示唆された.
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