1)H.pylori感染による胃発癌の菌体病原因子解析:cagPAI遺伝子多型と病態との関連:これまでに我々は日本の胃癌株F32と十二指腸潰瘍株OK107において約40kbのcagPAIの全塩基配列を決定し、既報のイギリスの胃炎由来の26695株及びアメリカの十二指腸潰瘍由来のJ99株と比較したところ、4つの株間のcagPAIの塩基配列は約92%の一致率を示した。cagPAI内の各遺伝子の塩基配列は株間で保たれていたが(一致率約95%)、28個のcagPAI遺伝子の中で、cagAとvirB10において繰り返し配列を認め、それぞれの株間で大きく異なっていた(一致率約85%)。また、cagPAIの全塩基配列を、慢性胃炎株、胃癌由来株、十二指腸潰瘍由来株について計11株、既報の塩基配列を元にPCR-direct sequencingにより決定し、系統樹解析を行ったところ、大きく欧米型と日本型とに分けられた。また、日本型の株での感染において、慢性胃炎の萎縮度が強いことが認められた。b)cagPAI遺伝子変異H.pylori菌を用いたスナネズミ感染実験:N-methyl-N-nitrosourea(MNU)を用いたスナネズミ胃発癌モデルに野生株、cagAノックアウトH.pylori株、cagEノックアウトH.pylori株に感染させたところ、cagEノックアウトH.pylori株において胃癌の発症が有意に低かった。また、cagAノックアウトH.pylori株では胃癌の発症率には変化は認めなかった。しかし、野生株感染群では発症した胃癌は進行癌であったが、cagAノックアウトH.pylori株では早期癌にとどまっていた。したがって、IV型分泌装置により、CagA以外にも発癌に関与する蛋白が上皮細胞内に注入されていることが考えられ。
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