極めて多様性に富む肺癌を一つの『疾患』として総合的に理解し、その成果を個別的分子診断・治療法開発へと還元するための基盤を構築することを目指して、以下の研究を進めた。 1)肺腺癌は、特に多様性が高くWHOの組織型分類にも多くの課題を抱える。470種のマイクロRNAに対応したマイクロアレイを用い、76例の肺腺癌外科切除腫瘍検体と5例の正常肺組織の網羅的発現解析を行い、マイクロRNAの発現プロファイルに基づいて肺腺癌が、術後再発に有意な差を示す4つのクラスターに分類可能なことを示した。最も予後の良いクラスターは正常肺組織に極めて類似した発現プロファイルを示した。一方、我々が世界に先駆けて異常を報告したlet-7の低発現とmiR-17-92クラスターの高発現という、胎生期肺に類似した発現プロファイルを特徴とするクラスターは有意に悪い術後予後を示し、また、胚性幹細胞で高発現を示すmRNAの遺伝子セットに有意な脱統御を示すことを明らかとした。 2)我々が肺腺癌のリネッジ特異的な生存シグナルを伝えることを明らかとしたTTF-1遺伝子の下流遺伝子群の探索を進めた。その結果、興味ぶかいことにTTF-1は生存シグナルの伝達以外にも、細胞骨格関連遺伝子を直接転写活性化して、細胞運動や浸潤・転移に抑制的に働くことが明らかとなり、TGF-βのように癌細胞にとって正負両面のシグナルを伝えている可能性が示唆された。 3)我々が樹立した肺癌転移モデル系(NCI-H460-LNM35)を用いて高転移性及び肺癌症例の不良な予後との関連を示した19Sプロテアソームサブユニットの一つであるPSMD2が、分子標的となり得ることを示した。さらに、PSMD2のみならずプロテアソーム関連遺伝子群は肺癌の一部において協調的に高発現を示し、そのような肺癌症例は極めて不良な術後予後を示すことを明らかとした。
|