細胞の癌化には、ゲノムの恒常性を維持するDNA修復システムの破綻が深く関与し、この機構の中心的役割を果たすDNA修復遺伝子の一塩基多型(SNP)は、ヒト癌の最も大きな遺伝的要因の一つと考えられる。本研究では、1)多人種にわたる当該遺伝子群のSNPの同定と、人種的偏差を加味したDNA修復遺伝子のSNPデータベースの構築2)DNA修復遺伝子の機能を細胞レベルで容易に判定できるユニークな系をもちいた疾患特異的SNP生物学的機能評価を行ない、それぞれ、以下のような結果を得た。 SNP検索とデータベース構築 DNA修復遺伝子120個を選び、白人、日本人、タイ人における遺伝子多型同定を塩基配列決定と自動検出プログラムでの解析により終了した。総数約5200個の多型を同定し、個々の多型の情報(アレル頻度、遺伝子毎のハプロタイプ、タグとなる多型の選択等)を自動計算するプログラムを備えたデータベースを完成させ、すべての多型情報を格納した。現在一般公開のためのセキュリティー確立を試みている。 SNPの機能評価実験 ヒトRAD51、XRCC2及びXRCC3遺伝子のcDNA(野生型、変異型)を当該遺伝子欠損ニワトリDT40細胞株に導入し、細胞株のDNA修復機能欠損を正常に相補するか否かを調べた。野生型、変異型のcDNAを導入したDT40株を、異なった濃度のシスプラチンで処理した後細胞の生存率を調べたところ、XRCC2遺伝子の3'末端近くのSNP(遺伝子産物のArgをHisに変える)ついて、変異型cDNA導入株は野生型に比べシスプラチンによるDNA損傷に対して修復能が有意に高いことが見いだされた。このように遺伝子産物の生物学的機能に影響を及ぼすSNPは、癌の原因や予後と関わっている可能性があるので、将来のがんの遺伝解析における強い候補遺伝子となりうる。
|