本研究においては、がん研究におけるプロテオミクス解析の最も有効なストラテジーを構築するため、世界的にも急速に発展しつつある最先端の高感度・分解能・解析速度をもつプロテオミクス解析技術のがん研究への応用と、これに対応する高度なバイオインフォマティクスの開発をみている。本年度は題材として、我々が既に解析を進めている脳腫瘍に関して、Proteomic Differential Display法とAffinity Cellular Mapping法を中心に検討すると共に、脳腫瘍関連Proteome Data Baseの開発を検討した。脳神経系組織細胞を用いて、各種蛍光/安定同位体標識差異解析法を中心に検討し、今まで不可能とされていたfmo1〜atmo1のレベルの組織由来蛋白質の同定と、定量的差異解析を可能とする技術(cICAT法、iTRAQ法、2D-DIGE法)を確立した。又、同じサンプルを用いてトランスクリプトーム解析を行い、mRNA発現解析データとプロテミクスのデータを統合マイニングするソフトを開発し、最も的確なターゲット分子、およびこれに関連する細胞内シグナルキャスケードの抽出を行う方法論を確立した(特許出願2006-076106・情報処理システムおよび情報処理プログラム)。特にgliomaの形成進行に関連して変化する蛋白質群の検出・同定を、患者脳組織、神経系培養細胞を用いて、2D-DIGE法とnanoLC-MASショットガン法を用い、リン酸化情報を含めた定量的蛋白質差異解析・同定、及び同時進行で得たmRNA発現情報を統合して、特異的な細胞内異常シグナルの抽出を試みたところ、gliomaの抗癌剤感受性・非感受性に関連するシグナル分子群(血管透過性、細胞周期、細胞接着因子、核レセプター関連シグナルなど)の抽出に成功した(論文投稿中)。現在、これらの結果の細胞生物学的検証、各種腫瘍への応用、合理的な治療薬開発や予防法開発等に繋げる基礎情報取得システムの確立を行っている。本研究の方法論は、脳腫瘍のみならず、様々ながんにおける腫瘍発生メカニズムの解析に応用でき、合理的な治療薬開発や予防法開発等に大きく貢献できる可能性がある。
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