研究概要 |
ブラジルに居住する日系人を対象に,がんの発生要因を解明し,日本人にとって効果的な予防法を開発するために,症例対照研究や断面研究などの手法を用いた疫学研究を行っている。 乳がんの症例対照研究は,平成17年度に対象者の収集が終了したサンパウロ州在住日系人(79例)と非日系人(379例)の2つの症例対照セットに,環境要因による発がんの影響を修飾する遺伝素因の役割についての検討を効率的に行えるように,別の研究費により収集した日本在住日本人(388例)を加えた3セットを用いて解析を行っている。今年度は葉酸代謝に関連する栄養素,遺伝子多型について検討した。全体では葉酸,ビタミンB6,ビタミンB12の栄養素との間に有意な関連は観察されなかったが,閉経前女性では葉酸高摂取群で乳がんリスクの上昇が見られた。またMTHFR遺伝子多型(C677T,A1298C)との間には有意な関連は見られなかったが,MTR遺伝子多型(A2756G)ではAAアレルを持つ群に比べてGGアレルをもつ群で有意なリスク上昇が見られた。栄養素と遺伝子多型の組み合わせでは,生物学的な機序を反映すると想定される交互作用は観察されなかった。 乳がんの症例対照研究に使用した食物摂取頻度調査の妥当性を検討するために,対照群の55名の対象者に対して8日間の食事記録と食物摂取頻度調査票の調査を行った。その結果,カルシウムやイソフラボンなどの栄養素は,食事記録と食物摂取頻度調査票から算出した摂取量の相関係数が0.5以上であり,乳がんとの関連を検討する上で妥当性を持つこと確認された。 サンパウロ州在住日系人を対象に大腸腺腫保有に関連する要因を明らかにすることを目的とした大腸腺腫の断面研究は,2つの医療機関で対象者のリクルートを行っており,平成20年3月末の時点で約150人の調査が終了している。
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