我々は以前、成人T細胞性白血病細胞(ATL)においては、セレクチンの特異的な糖鎖リガンドの発現が誘導されており、これが原因でATL細胞が独特な強い皮膚浸潤を起こすことを明らかにした。その後我々は、皮膚ホーミング性のヘルパーメモリーT細胞上のセレクチンリガンドを解析して、これが硫酸基修飾を持ち、通常とは異なるシアリルルイスX糖鎖である事を明らかにした。皮膚ホーミング性のヘルパーメモリーT細胞上のセレクチンリガンドでは、シアリルルイスX糖鎖構造中のN-アセチルグルコサミン残基のC6位が硫酸化を受けており、これは6-硫酸基転移酵素で合成される。そこで本年度は6-硫酸基転移酵素遺伝子の転写調節機構を解析した。6-硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-1の調節領域にはGATA-2/-3およびNF-κB結合部位のタンデムな配列が二回繰り返して存在し、これらの転写因子の結合によって相乗的に転写が亢進することが明らかとなった。このことは、T細胞系の悪性腫瘍では、Th2系細胞が活性化刺激を受けた際に6-硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-1の転写が誘導され、これによって皮膚ホーミングにおいて皮膚血管内皮のセレクチンに対する糖鎖リガンドとして働く硫酸化シアリルルイスX糖鎖の発現がT細胞側に誘導されることを示唆する。実際、ヒト末梢血T細胞を抗CD28/固相化抗CD3抗体とともにIL-4・IL-2/抗IL-12抗体添加で培養してTh2分化を起こすと著明なGlcNAc6ST-1の転写誘導と硫酸化糖鎖の発現が観察された。Th1分化条件下では転写誘導も硫酸化糖鎖の発現も起こらなかった。悪性T細胞腫瘍でも、ほぼ同様な機構による皮膚ホーミング糖鎖の発現誘導が起こっているものと考えられる。
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