免疫バランス制御を考慮した癌ワクチン・細胞治療を開発するために本年度は以下の2点を柱として研究を遂行した。 (1)タイプ1免疫の活性化を介した癌ワクチン療法の開発:タイプ1型の自然免疫と獲得免疫を活性化してより効果的に癌特異的CTLを誘導するための免疫療法をマウス実験系で確立して、その臨床応用を計ることを検討した。(1)癌特異的なタイプ1免疫を活性化するために、TLR9のリガンドであるCpGと仮想癌抗原(OVA)をリポソームに封入したナノ粒子癌ワクチンを用いて癌ワクチン療法を行った。その結果、担癌マウスに本ナノ粒子癌ワクチンを投与することによって、テトラマー陽性の癌特異的CTLが効果的に誘導され、約50%のマウスでは癌の完全退縮が観察された。また、CpGと癌抗原を用いた免疫療法においてはIFN-α/βが癌特異的CTL誘導において不可欠な因子であることも初めて明確にされた。(2)担癌マウスの腫瘍内に癌抗原を投与して、癌特異的Th1細胞を静脈内投与することによって、癌の所属リンパ節においてDC/Th1相互作用の活性化、それに引き続く癌特異的CTLが誘導され、癌の完全退縮が誘導された。本結果により、癌特異的Th1細胞は癌抗原との併用により強力な細胞アジュバントとして癌免疫療法に応用できる可能性が示唆された。 (2)ヒト癌特異的Th1細胞加工法の開発:上記(1)の研究でTh1細胞の癌治療への応用性が示された。しかし、クラスI拘束性癌ペプチドに比し、クラスII拘束性ペプチドは多くは開発されておらず、試験管内での癌特異的Th1細胞誘導は困難である。そこで、クラスI拘束性の癌特異的CTLからT細胞レセプター(TCR)遺伝子を単離してウイルスベクターを用いて非特異的に活性化したTh細胞に導入した。その結果、癌と特異的に反応するクラスI拘束性遺伝子改変ヒト癌特異的Th1細胞の加工法の開発に成功した。
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