研究概要 |
本研究は,炎症発癌を対象とした新規の分子標的療法の礎を築くことを目的としている.その具体的探索を行うために,炎症発癌の第一義的要因である好中球の局所への浸出阻害を担う特異的ペプチドを判定するための実験系を構築し,候補ペプチドおよび薬剤を用いた浸出阻害試験を行った.実験系構築には,2系のマウス血管内皮細胞(MBEおよびHSE)を使用した.これらをTNF-αの添加によって活性化させた後に,炎症局所より採取・分離した好中球の接着能を定量できるin vitroアッセイ系を構築した.なお,好中球はゼラチンスポンジ(10×5×3mm)をC57BL/6マウス腹腔内に移入後5日目の腹腔浸出細胞から採取し,その後比重分離法にて好中球分画を主に含む細胞集団を蛍光色素にて標識して使用した.好中球の接着を促進する血管内皮細胞のTNF-α処理濃度は,100-400pg/mlであり処理後4時間後に最大の接着能を持つことを見いだした.このin vitroアッセイ系を用いて,以下の研究成果を得た.(1)インテグリンβ2(ItgB2)と活性化好中球に発現するICAM1の結合部位に対する特異的ペプチドをItgB2の結合ペプチドモチーフである(D/E)(D/E)(G/L)W配列を指標として合成し,スクランブル配列ペプチドに対する接着抑制効果を指標として判定したが,現在までに検討した範囲内において,予想に反して有意な効果を得ることができなかった.(2)研究室に現有する既存薬剤を数十種類添加培養したところ,スタチン製剤の中でも特にロバスタチンに抑制効果を観察した.現在ItgB2と活性化好中球に発現するICAM1の結合部位に対するロバスタチン薬剤の必須最小ペプチドの新規同定法の確立を含め,本研究課題遂行期間内には達成し得なかった特異的配列探索を継続中である.
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