急性骨髄性白血病におけるFLT3変異は、シグナル伝達径路MAPKやSTAT5を恒常的に活性化し、IL3依存的細胞株をトランスフォームするが、野生型FDT3ではリガンド刺激によってもSTAT5は活性化されずまたトランスフォームもしない。STAT5恒常的活性化はトランスフォームに必要かつ十分である。そこで変異FLT3とSTAT5をつなぐシグナル伝達径路が白血病に特異的かつ重要と考え、この径路を明らかにし治療標的とすることを第一の目的とした。本年度、FLT3/ITDはSrcファミリーチロシンキナーゼLynと変異特異的に結合し、これに伴ってLynがリン酸化された。Lynを標的としたsiRNAあるいはLyn阻害剤PP2によって、STAT5リン酸化はLynに依存していることを明らかにし、マウスモデルでLyn標的治療の有用性を確認した。 急性前骨髄球性白血病におけるキメラ転写因子PML-RARαはドミナントネガティブにレチノイン酸(RA)応答遺伝子群の転写を抑制し、分化抑制に働くとされている。しかしどのような転写抑制複合体がリクルートされ転写制御に働くのか明らかではないので、この径路を明らかにし治療標的とすることを第二の目的とした。本年度の研究により、N-CoR-HDAC3ヒストン脱アセチル化酵素複合体が、APLに発現するPML-RARαキメラ転写因子を介して標的遺伝子プロモーター部位にリガンド非存在下でリクルートされ、遺伝子発現を抑制することを確認した。この複合体はリガンド存在下でPML-RARαから解離する。さらにHDAC3の機能を阻害することにより、標的遺伝子発現の抑制が解除されることを確認した。この結果、N-CoR-HDAC3複合体がAPLにおける新規治療標的分子となる可能性が強く示唆された。
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