研究課題
平成21年度には原子炉実験所で開発中であったサイクロトロン中性子源が略完成し、中性子ビームを得ることが出来る状態となった。ビームの物理特性、放射線生物学特性を実験にて検索した。中性子のエネルギースペクトルは原子炉よりも高エネルギー側にシフトしていることが実験的に確認された。これは医学利用にとって正負の両面を有する。深部線量が改善する点では利点となるが、表面線量(皮膚)を押し上げる欠点にもなる。また、中性子の強度は、現状で原子炉中性子の約1.4倍であり、今後、照射野形成装置の改良で更に最高1.5倍高め得る。すなわち、原子炉の2倍強の中性子強度を得る見通しが得られた。生物学特性は、培養細胞でのコロニー形成能、骨髄細胞への影響(肋骨断面における細胞密度の減少の線量依存性)、頭頸部を照射されたマウスの放射線口腔死、ヌードマウスにヒト脳腫瘍株、舌がん細胞株を移植し、ガンマ線照射、中性子ビーム単独およびホウ素化合物(BPA)の投与と中性子照射の併用等の処置を行い、ホウ素中性子捕獲反応による抗腫瘍効果を検索した。先ず、中性子ビームのRBEは、評価の指標により異なったが、2.2~2.8の間に分布した。そこで、ヒトに対する臨床試験研究においてはRBE=2.5とすることとした。この値は、原子炉中性子で用いてきた3.0よりも小さいが、サイクロトロン中性子との衝突で叩き出される陽子のエネルギーが高いので、LETが少し小さくなることで合理的に説明できる。培養細胞を用いた実験ではホウ素化合物を併用した場合、ホウ素濃度依存的に中性子の殺細胞効果が著しく増強されることも証明された。これらのRBEや物理特性を踏まえ、脳腫瘍および口腔癌に対するホウ素中性子捕捉療法での正常組織(皮膚、粘膜あるいは正常脳)線量を評価したところ、サイクロトロン中性子がやや有利ではあるが、有意な差ではなかった。原子炉の経験を問題なく応用できる。
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