ガンキリンは、肝細胞がん全例で発現が亢進しているがん遺伝子産物である。がん抑制蛋白質Rb、Cdk4、26SプロテアソームのサブユニットS6ATPアーゼ、MAGE-A4等と細胞内で複合体を形成する。さらに、Mdm2に結合してそのユビキチンリガーゼ活性を促進させることにより、がん抑制蛋白質p53の分解も促進する。本研究では、ガンキリンの発現抑制がどのようながんに対して治療効果を示す可能性があるか、ガンキリンは悪性形質の維持に必要かという点をあきらかにする。さらに、ガンキリンの構造に基づいた創薬のため、Mdm2あるいはS6とガンキリンとの複合体の構造を解明する。 1.細胞内でガンキリンに対するRNAiを産生するプラズミド及びレトロウイルスを作成し、がん細胞株でガンキリンの発現を抑制した。p53が野生型である腫瘍細胞株でアポトーシスを誘導することが出来た。p53に変異がある場合及びp53の分解がMdm2非依存性に促進している腫瘍細胞株では抗腫瘍効果が弱かったが、有意な効果が得られた。これは、ガンキリンがMdm2結合を介して、p53だけではなくRbの分解をも促進しており、その抑制による抗腫瘍効果であろうと考えた。 2.ヒトのいろいろながん組織のRNAをブロットしたものを購入してノーザンブロットを行った。さらにガンキリンの発現状態を免疫組織化学的に調べられるように、モノクローナル抗体を作成し、組織アレーによりいろいろながん組織での発現を解析した。 3.Mdm2と結合するガンキリン部位の構造をX線結晶解析で明らかにし、阻害剤をデザインするため、Mdm2断片を大腸菌や昆虫細胞で発現させた。ガンキリンとの共結晶化を試みている。 4.肝細胞特異的にガンキリンを過剰発現させるトランスジェニックマウスを作成し、ヘテロを3系統得た。現在観察中である。
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