造血細胞の増殖・分化・死は、造血因子・受容体システムなどにより制御されている。これらの制御機構の破綻により白血病が生ずるが、特に、チロシンキナーゼの異常は白血病の成因として極めて重要である。特に、c-kit受容体チロシンキナーゼ(KIT)やKITと類似の構造を有するFLT3活性化変異は白血病の原因となるが、キナーゼ領域変異に対する有効な阻害剤は存在しないKITやFLT3キナーゼ領域変異(D814V-KITとD838V-FLT3)による恒常的活性化機構ならびに下流のシグナル伝達系を検討するため細胞内22個のTyrをPheに置換したミュータントを作製し、恒常的活性化や下流シグナルについて検討した。KITではキナーゼインサート部位のTyr719が恒常的活性化に重要であったのに対し、FLT3変異ではキナーゼ領域のTyr845、Tyr892、Tyr922が恒常的活性化や蛋白の安定化に重要な残基であることが明らかとなった。 一方、我々は、各種サイトカイン刺激により発現が誘導される新規抗アポトーシス分子Anamorsin(AM)を同定した。AM欠損マウスは胎生後期に造血障害にて死亡し、胎生期造血組織である肝臓では、造血細胞がアポトーシスに陥っていた。AMの発現を各種B細胞性悪性リンパ腫細胞で検討した。特異的モノクローナル抗体を用いて組織切片を染色すると、濾胞性リンパ腫(特にgrade1)に高頻度にAMが高発現されていた。また、一部のびまん性大細胞型リンパ腫の一部にもAMの発現が認められた。また、AMの抗アポトーシス作用を解析するため、AMに結合する蛋白の同定をtwo hybrid法を用いて検討し、チオレドキシン・ホモロジー領域を有する遺伝子PICOTを同定した。AM欠損細胞では活性酸素種(ROS)の蓄積が認められ、AMによるアポトーシス抑制にはPICOTを介するROSの消去が関与している可能性が示唆された。
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