チロシンキナーゼの恒常的活性化は、各種造血器腫瘍の発症や病態に深く関わっている。本年度は、慢性骨髄性白血病(CML)の原因遺伝子bcr-ablチロシンキナーゼの下流シグナルの検討を行った。CMLでは貧血が認められるが、その原因についてRas/MAPK経路の赤芽球造血に与える影響について解析した。Ras/MAPK経路の活性化は造血器腫瘍において高頻度に認められ、特にCMLでは形質転換の中心的な役割を担う。Rasは細胞増殖を促進する一方で、細胞を発癌から防御するブレーキ機構をも活性化する。CMLにおいて骨髄球系の過剰増殖と同時に赤血球系の造血抑制が認められる原因として、GATA-1が本来の転写因子としての機能とは別に、蛋白間の直接作用によりRas/MAPK経路を抑制することを見出した。さらに、本来Rasによる発がん抑制機構の中心にあるp53やp16とは独立に、p21がN-Rasの下流で赤芽球造血抑制に寄与しており、新たなRasの細胞抑制シグナル経路を示唆するものである。 一方、我々は、サイトカイン刺激によりその発現が誘導される新規抗アポトーシス分Anamorsin (AM)を見出しているが、AMが成熟血球よりも造血幹細胞に発現が高く、AM欠損造血幹細胞は造血再構築能が低いことが明らかとなった。さらに、造血微小環境の造血支持能にもAMが関与していることを見いだした。つまり、AM欠損マウスの高度の貧血は、造血幹細胞と造血微小環境の両面の欠陥に起因することが明らかとなった。
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