ヒト肝臓に対し極めて高い特異性及び感染性を有するB型肝炎ウイルス(HBV)の感染機構を担う外皮タンパク質を、組換え酵母で「中空バイオナノ粒子(HBV表面抗原粒子)」として大量生産し、粒子内部に遺伝子や薬剤を封入して、ヒト肝臓特異的で高効率な遺伝子・薬剤導入用ベクターとすることに成功した。これはウイルス法とリポソーム法の長所を併せ持つ新しい遺伝子及び薬物送達法であり、「中空バイオナノ粒子法」と称している。既に、(1)肝癌移植ヌードマウスの遺伝子治療による肝癌増殖抑制、(2)HBVエスケープ変異体を模倣した低抗原性粒子の開発、(3)サイトカイン又は抗体提示粒子によるサイトカイン受容体又は抗原依存的標的化、(4)本粒子を肝癌以外の癌に再標的化させるため、生体内で細胞及び組織特異性を示すHoming Peptideを独自に単離した。平成17年度は、今まで小さな分子の標的化にしか使用されていなかったHoming Peptideを中空バイオナノ粒子の標的化で使えることを確認した。具体的には、Homing Peptide(それぞれヒト大腸癌、ヒト肺癌、ヒト扁平上皮癌に対する)を中空バイオナノ粒子表面に提示させ、各粒子が対応する癌細胞に遺伝子や薬剤を送達できることを示した。また、Homing Peptide提示粒子の内部に、癌治療用遺伝子(HSV-t k)や抗癌剤を封入し、担癌マウスの尾静脈から投与して、肝癌以外の癌の治療にHoming Peptide粒子が有効であることを示した。さらに、抗体結合用ZZタグを提示する粒子に癌細胞特異的抗体を結合させて、癌治療用遺伝子(HSV-t k)や抗癌剤を封入し、担癌マウスの尾静脈から投与して、肝癌以外の癌の治療に抗体提示粒子が有効であることを示した。以上の結果により中空バイオナノ粒子の適応症は著しく広がった。
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